香月 夕花

小説家。書籍の刊行情報など

刊行作品紹介

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刊行情報をまとめたサイトがなかったので、こちらでご紹介します。これまで5冊の本が出ています。
最新情報は

「昨日壊れはじめた世界で」(新潮社)

 

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幼馴染の翔子と再会した書店店主・大介は、忘れていた小学校時代の出来事を思い出す。同級生四人と忍び込んだ町で一番高いマンションの最上階。そこにいた不思議な男は、世界の終わりを予言した。三十年の時を経て、大介と翔子は謎の男を探し始めるが、男がマンションから飛び降りたという噂を耳にして……。ひび割れた世界のかすかな希望を力強く描く連作短篇集。
 
【メディア掲載情報】
・王様のブランチ BOOKコーナー(2020.6.20)
毎日新聞 今週の本棚 川本三郎評(2020.7.4)
西日本新聞 原口真智子評(2020.6.20)
・anan 瀧井朝世インタビュー(2020.7.15日号)
・波 書評(2020.6月号)
・カドブン 杉江松恋の新鋭作家ハンティング
ダ・ヴィンチニュース 2020.8.22
・男の隠れ家デジタル2020.9.29
・本が好き
 
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小説新潮 2019.1〜2019.11月号に掲載)

 

「見えない星に耳を澄ませて」(KADOKAWA

 

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私たちはこんなにも弱くて、脆い。それでも生きることから、逃げられない。
音大のピアノ科に通う曽我真尋は、たまたま参加した大学の授業で人の心を薬のように癒す音楽もあることを知り、三上先生の診療所で音楽療法士の実習を受けることにした。大人の声に耳を閉ざす少女、キラキラと飾った虚構の自分しか愛せないパーソナルスタイリスト、探し求めた愛情を見付けられず無気力に生きる中年男性……様々なクライエントと音を通じて向き合ううちに、真尋自身も自分が抱えた秘密と向き合うことになり――。
私たちはこんなにも弱くて、脆い。それでも生きることから、逃げられない。美しい旋律と共に、生き抜く強さを与えてくれる感動の一冊。
 
【著者註:主人公の真尋はいわゆる「HSP(Highly Senstive Person)」。繊細すぎる感覚、鋭すぎる感受性に苦しみながらも、彼女は音楽療法にたどり着き、自らの特性を活かす方法を模索し始めます】
 
【メディア掲載情報】
・クロワッサン(2021.3.10号)
・MOE(2021.4月号)
・カドブン 著者インタビュー「わたしたちは”しんどさ”を通して繋がることが出来る」
・カドブン 手嶌葵評「この小説で体験した感覚はコンサートで味わう感覚と似ているなと思いました」
夕刊フジ(2021.1.7)
 
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野性時代 2020.11月号に一部掲載)

 

「やわらかな足で人魚は」(文春文庫)

 

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【著者註:単行本「水に立つ人」を、収録作品入れ替えの上、加筆修正して文庫化。親本とは内容が異なっておりますのでご注意下さい】
 
*****
一体どうしたら自分は人間になれるのだろう。
当たり前に愛される人間の子供に。
 
タワマンを舞台に電話詐欺の嘘によって結びつく偽物の母と息子。
“前科”のある中学教師と孤独な少女。
悲しみを抱えた二人が出会うとき、世界は色を変える。
『昨日壊れはじめた世界で』が話題沸騰のオール讀物新人賞作家の、痛々しいほど危うく美しい傑作短編集。
 
この短編集の五人の主人公たちは、皆、「どこにでもいるけれども、悲しみを抱えているとは傍目に分からない人たち」だ。
香月夕花の描く世界は、どこまでも儚く、残酷で、美しい。
満場一致でオール讀物新人賞を受賞したデビュー作「水に立つ人」と同名の短編集を改題し、「逃げていく緑の男」を追加して再構成。
解説:川本三郎
 
【メディア掲載情報】
沖縄タイムス(2021.4.3)
・文学界2021年5月号 犬山紙子評(2021.4.7)
産経新聞・ビブリオエッセー「壊れやすくも、したたかに」(2021.6.23)
ラジオ沖縄「チョイス」夕方図書館(2021.4.20)
・本の話Web「悲しみと優しさが溶け合う場所」川本三郎
 (↑↑↑著者註:内容のネタバレがあります。未読の方はご注意下さい)
 
 

「永遠の詩(とわのうた)」(文藝春秋

 

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「男と女、人の世の仕方なさ、これは現代版の源氏物語だ」
桜木紫乃氏 推薦)
 
愛した美しい継母は、とてつもない悪女だった。
世の中にあふれている「不格好な愛」にどう向き合えばいいのかを、問い直す傑作長編。
継母との秘められた関係。
罪から逃れ出た青年は、新たな人生を求め、ガラス工芸の道に飛び込む。
心から信じた者の裏切り、繰り返される過ち。
千四百度の炎に煽られながら彼が探し続けたものとは――。
 
【著者註:これを書いた頃、世間の「自己責任論」に心底うんざりしていたことを思い出します。自分にはどうにも出来ないことが原因で、人生の道筋を曲げられていく人達。そこに対する世論の無理解。
本作の主人公は罠のような恋愛に絡め取られますが、それは生い立ちの厳しさに追い込まれた結果です。でもそのまま潰されたりはしない。寄る辺ない心を抱えながらも、「何があれば生き続けることが出来るのか」その答えを探して彼はガラス工芸の道へと進みます。燃え続ける熔解炉の炎は、彼の生きるよすがとなるでしょうか】
 
【メディア掲載情報】
・qui-la-la「書店員が選ぶ今月必読のきららコラム」
・本の話Web 著者インタビュー(2018.12.05)
「自分の人生を取り戻す若者の物語」
・本の話Web 著者インタビュー(2018.10.10)
「人生が有限であると知ったときに見えてくるもの」
 
オール讀物 2017.6〜2017.12月号に連載)
 

「水に立つ人」(文藝春秋

 

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彼の悲しみは彼のものなのだ。
でもよく似た悲しみを、私もまた知っている。
 
選考委員全員が◯を付けた、オール讀物新人賞受賞作を含む鮮烈なデビュー作。
 
この人は、ただひたむきに人間の再生を描こうとしている。
どの一編にも、心が救われる瞬間が、深く刻まれていた。
 
〈著者コメント〉
傷ついている人、立場の弱い人、大切なものを失った人。どこにでもいるけれども、悲しみを抱えているとは傍目に分からない人たち。そんな人々にスポットライトを当てて、彼らがそれぞれの救いをつかみとっていく道筋を、五つの物語の中に描き出しました。どの物語の最後にも、必ず、彼らなりの光が待っています。
 
なんだか疲れてしまって、昨日までカラーだった世界が、急に彩りを失ったように感じるとき。ひとりぼっちで、何もかもがモノクロの世界の中へ、迷い込んでしまったように感じるとき。どうかこの本を開いてみてください。読んでくださった方の視界にもう一度、豊かであたたかな色彩が戻ってくるように、そんな願いを込めて書き上げた作品達です。
 
オール讀物 2013年〜2016年に掲載)
 

「あの光」(集英社小説すばる連載)集英社より刊行予定です

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小説すばるにて連載させて頂きました「あの光」無事に完結しました(22年3月号〜23年1月号)
ほぼ一年の長丁場でしたが、御愛読頂いた皆様、有り難うございました!

ハウスクリーニングサービスに勤める普通の女性・高岡紅が、ひょんなことから「お掃除で人生を変える」自己啓発セミナーを立ち上げ、教祖さまと化していく物語。

教祖さまって実は大変なんじゃないかな……という素朴な疑問から始まった本作。書き終えてみて思ったのは「確かに大変に違いない。ただし良心が残っていれば」ということ。

「信じる」ってどういうことだろう。「承認欲求」って一体何なんだろう?
思わぬ形で宗教がクローズアップされた22年、キーボードを打つ手にも力が入りました。
本作は23年中に集英社より刊行予定です。信じることの危うさについて、この本と一緒に考えていただければ嬉しいです。

「あの空の青は」と映画「フロム・イーブル」

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「昨日壊れはじめた世界で」(新潮社、20年5月刊)について、Instagramでお話しした執筆の動機など、こちらでまとめておきます。本編のネタバレになる可能性がありますので、未読の方はご注意下さいね。

 
19年4月当時、私は「あの空の青は」という作品を書いていました。
「昨日壊れはじめた世界で」に収録された、全体の要となる一篇です。
去年の4月にも思い出し、今年もまた思い出す。ずっと思いを引きずっているので、一度あの作品について、お話しさせて頂ければと思います。
 
***
着想したのはもうずいぶん前のこと。「フロム・イーブル」というカトリック教会の性的虐待を題材にしたドキュメンタリー映画(写真2枚目)を見たときです。
 
昨年の「グレース・オブ・ゴッド」や、16年のアカデミー作品賞「スポットライト」など、カトリック教会の性的虐待問題を扱った作品が近年公開されていますね。しかし「フロム・イーブル」は正真正銘のドキュメンタリー。本物の虐待犯(神父)が登場します。
 
この人物が犯行当時を回想する映像がとてもショッキングでした。語っている間、彼は終始幸福そうに見えたのです。
 
他者への共感能力がゼロで、相手の痛みを感じられない。その上カトリック教会は徹頭徹尾、加害者である彼の味方なわけです。ここに反省は生まれない。
 
彼は被害者に向かい「また会って話せたらいいよね」と微笑みまじりに呼びかけます。おぞましいはずの犯罪の記憶も、彼にとっては「楽しい思い出」に過ぎないんですよね。
「これが人間なのか?」と映像を見ながら考えずにいられませんでした。
 
一方で被害者とその家族は悲惨です。被害を訴えた側が「教会の秩序を乱した」あるいは「誘惑したお前に非がある(実際には一方的に被害を受けただけなのに)」と見なされて教団から排斥されるという、残酷な事実がそこにあります。
 
強権的な組織の中で弱者が搾取されるケースというのは、許しがたいことではありますがありふれた現実でもあります。
しかしこの場合は単なる虐待に留まらず「心から信じていたものを奪われる」という被害も加わる点で非常に残酷です。
「スポットライト」でも描かれていたとおり、被害者たちは「この先何を信じて生きていけばいいのか分からない」状態に追い込まれるわけです。人生の根幹の部分を破壊されてしまう。
 
最近、日本国内のケースもようやく報道されるようになってきました。しかし大半は闇に葬られて終わるでしょう。カトリック教会のケースに限らず、声を上げることも出来ないまま消えて行く弱い人々が、きっと大勢いることでしょう。
 
闇に葬られた人達に、わずかでも光を当てることが出来ればという思いで、「あの空の青は」を書きました。「昨日壊れはじめた世界で」全体が、そうした人々への弔いの歌でもあります。
 
非力ではありますが全力を尽くしました。少しでも伝わるものがあれば幸いです。
(私自身は無宗教で、いかなる宗教団体とも関わりはありません。念のため)
 
追記:「あの空の青は、天国を流れる水の色なのだという」という書き出しを思いついたのは、確か十年前のことでした。綺麗な可愛らしいお話を書こうとして頓挫して、でもフレーズとしては気に入っていたので、いつか何かに使おう、と思っていたのです。時を経て、まさかこんな話に仕上がるとは。小説って(あるいは人生そのものも)何がどう展開するか本当に分からないとつくづく思います。
(2021.4.9)

HSP(Highly Sensitive Person)である主人公・真尋について—見えない星に耳を澄ませて—

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「見えない星に耳を澄ませて」は音楽療法をテーマとした作品ですが、もう一つのモチーフ「HSP(Highly Sensitive Person)」について、本稿でご紹介したいと思います(Instagramより転載)。
 
私がHSPの概念を知ったのは確か00年代の中頃。「ささいなことにもすぐに動揺してしまうあなたへ」という本が切っ掛けでした。
 
自分がそうだと言うつもりはないのですが(もっとお困りの方は多いと思うので)他人の感情や思惑を感じ取ってそれに振り回されがちだった自分にはとても興味深い内容でした。感受性は人それぞれで当たり前、繊細さを恥じる必要はないのだ、という提言に勇気づけられた人は多かったと思います。繊細な感覚そのものに加えて、それを自分で責めてしまうこともしんどいんですよね。
 
音楽療法士を目指す真尋にはHSPの傾向があります。他人の気持ちに振り回される自分を、他人の気持ちに寄り添える自分に変えていこうとする。ネガティブに評価していた自分の資質を、何とか活かしていきたいと奮闘する。そんな彼女の心の旅が描けていれば嬉しいです。
 
ささいなことにもあれこれ感じて挙げ句心の傷になる、というのはやりきれない。その一方で、風景や音楽と言った何でもないものに感じ入って元気になれる、というある意味お得な面もあるわけです。
端から見て退屈そうに見える生活でも、本人はちっとも退屈していなかったり。地味にドラマチックと言えるかもしれません。(2021.1.27)

Coming Soon

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小説新潮にて、2019年1月号から11月号にかけて掲載頂いた5本の連作短編が、一冊にまとまることになりました。

2020年春頃に新潮社より刊行予定です。雑誌掲載時より大幅改稿いたしましたので、誌上でお読み下さった皆様も再度お楽しみ頂けます。

既刊「水に立つ人」「永遠の詩」(文藝春秋刊)もよろしくお願いいたします。

小説新潮一月号「昨日壊れ始めた世界で」掲載

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――世界は昨日、壊れ始めた。

 

真新しい、眺めのよいマンションに忍び込んだ五人の子供達は、そこで独り暮らす、奇妙な「最上階の男」に出会います。世界は遠からず崩壊してしまう、と信じ込み、それを食い止めようとたった一人で静かな戦いを続ける男。

 

――君たち一人一人の些細な行動が、世界にヒビを入れてしまった。

 

 その言葉は、三十年の時を経て、大人になった彼らの心に蘇ります。

 四十歳を過ぎた今、あちこちがひび割れ始めた人生の斜陽を目の当たりにして、彼らが切に知りたいと願うこと、それは――。

 

 ――一体何が、自分たちの人生にひびをいれてしまったのだろう?

 ――手遅れなのかもしれない。でももしかしたら、まだ何か出来るのかもしれない。

 

 ロスジェネ世代、厳しい世相をそれぞれに生き抜く5人の姿を、心を込めて描き出します。

 誠実に生きることと向き合いながら、希望は失わずにいたい全ての人へ。

 是非、お読み下さい。

単行本「永遠の詩」全国書店にて発売中です

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愛を得られないまま成長した少年、彼を魅了する悪魔のような継母。運命のくびきから逃れるために必要なものは何なのか。青年は硝子工房に飛び込み、生きる道を切り開こうとしますが、そこにもまた、罠に似た運命が……。

工芸用ガラスを溶かして加工するために使われる【熔解炉】。そこでは千四百度の炎が絶え間なく燃え続けています。主人公・元基もまた、自身の心の中に、消えることのない永遠の炎を見つけることが出来るでしょうか。外側にある幸福を全て失った時、自分の内側に何を握っていれば、生き延びることが出来るだろうか。そんな問いと向き合いながら書き上げた作品です。

「オール讀物」2017年6月〜12月号に連載された作品が、大幅に改稿されて一冊の本となりました。連載時にお読み下さった皆様も、また違った印象を持ってお楽しみ頂けると思います。

表紙には画家の塩月悠さんが、大変魅力的なファム・ファタルを描いて下さいました。全国の書店にて発売中です。是非、お手元においてお楽しみ下さい。

刊行記念のインタビューは↓こちら↓です。

books.bunshun.jp

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加えて、本日発売の「オール讀物」11月号に、短編「硝子越しの要求」が掲載されます。振込め詐欺の電話を掛け続ける少年。ある日、応答したお年寄りが規格外のリアクションを見せて……。彼女の反応に振り回されながら、お互いの過去が思いもかけない形でリンクしていきます。こちらも是非、お楽しみ下さい。

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おまけ。

タイトルの「永遠の詩」は、レッド・ツェッペリンの名曲のタイトルより拝借。ツェッペリンに限らず、この作品の執筆中には、10代の頃に聞いたロックの名曲を随分と聞き直しました。いつも音楽に助けられながら創作しています。彼らの持つ力は本当に偉大だなあと痛感。